「書いて覚えなさい」はもう卒業。発達障害の子が英語をラクに覚える「書かない」暗記術
オンライン家庭教師
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昨日の夜、お子さんが塾から持ち帰った「0点の単語テスト」を見て、つい感情的になってしまいませんでしたか?

「やる気があるの?」「もっと書いて覚えなさい!」

そう叱りつけて、無理やりノートに練習させようとした結果、お子さんは泣いて癇癪を起こし、お母さんは「なんでできないの」という焦りと、「言い過ぎてしまった」という自己嫌悪で眠れない夜を過ごしたかもしれません。

お母さん、まずはその自分を責める気持ちを置いてください。そして、「書いて覚える」という呪縛を、私たち大人が捨てましょう。

お子さんが単語を覚えられないのは、努力が足りないからでも、お母さんの教え方が悪いからでもありません。脳の特性として「音」や「形」を捉えるセンサーが、少しだけ他の子と違うだけなのです。

この記事では、高額な教材を買うことなく、お手持ちのiPadやスマホと少しの工夫でできる、発達障害やLD(学習障害)傾向のお子さんに特化した「書かない単語暗記術」を伝授します。

それは「逃げ」や「ズル」ではなく、お子さんの未来を守るための立派な「戦略」です。さあ、苦しい暗記マラソンを終わらせて、新しい学習の扉を開けましょう。

なぜ、うちの子は何度書いても忘れるのか?【努力不足ではありません】

なぜ、うちの子は何度書いても忘れるのか?【努力不足ではありません】

まず、なぜお子さんは何度ノートに書いても、翌日にはきれいさっぱり忘れてしまうのでしょうか。

多くの保護者様が「記憶力の問題」と考えがちですが、実はその手前にある「入力(インプット)のセンサー」に原因があることがほとんどです。ここでは、学習障害(LD)の特性とお子さんの状態の関係性を紐解いていきましょう。

1. 「音」が聞こえていない(音韻認識の弱さ)

英語は日本語と違い、発音と綴りが一致しない言語です(例:name は「ナメ」ではなく「ネイム」)。

通常、私たちは脳内で文字を音に変換して記憶しますが、学習障害(LD)の中核的な原因の一つである「音韻認識の弱さ」があるお子さんは、この変換がうまくできません。

彼らの耳には、英語の音が「雑音」のように聞こえているか、あるいは細かい音の粒(フォニックス)を聞き分けられていない可能性があります。

「音がわからない記号」を何度書いても、それは単なる「模様の模写」に過ぎず、記憶には定着しないのです。

2. 「形」が歪んで見えている(視覚認知の弱さ)

また、視覚認知の弱さがある場合、アルファベットの b と d 、 p と q が反転して見えたり、文字が黒い塊として認識されたりすることがあります。

想像してみてください。歪んで見える記号を、意味もわからず100回書き写すことを。それは学習ではなく、脳にとっては「拷問」に近い苦痛です。


✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: お子さんが書くことを嫌がったら、即座に鉛筆を置かせてください。

なぜなら、苦痛を感じている脳は「防衛反応」として情報をシャットアウトしてしまうからです。この状態で無理に書かせ続けることは、英語力を伸ばすどころか、将来にわたる深刻な「英語アレルギー(二次障害)」を作る原因にしかなりません。

これらの特性を持つ脳に対して、従来の学校教育で主流である「反復書き取り」という学習法は、脳の特性と完全にミスマッチな手法です。

視力が弱い子に「気合で見ろ」と言うのが間違っているように、音韻認識や視覚認知が弱い子に「気合で書け」と言うのもまた、適切な指導とは言えません。

今日から家庭でできる!「書かない」単語暗記 3つの戦略

では、どうすればいいのでしょうか?

答えはシンプルです。「書く」という出力経路が詰まっているなら、「見て・聞いて・触る」という別のルートを使えばいいのです。

今日からご家庭ですぐに実践できる、3つの「書かない戦略」をご紹介します。

【戦略1】iPadの「読み上げ機能」を使い倒す

高価な専用教材は必要ありません。今すぐお手持ちのiPad(またはiPhone)を出してください。Apple製品には、視覚障害や学習障害の方を支援するためのアクセシビリティ機能が標準装備されています。

これを使うことで、iPadが「あなた専用の英語の先生」に変わります。

設定手順:

  1. 「設定」アプリを開く
  2. 「アクセシビリティ」を選択
  3. 「読み上げコンテンツ」を選択
  4. 「選択項目の読み上げ」をオンにする

これで、ブラウザ上の英単語や、メモ帳に入力した単語を選択するだけで、ネイティブな発音で読み上げてくれるようになります。

目(文字)と耳(音声)を同時に刺激することで、弱かった音韻認識をテクノロジーが補ってくれます。

【戦略2】「ローマ字読み」を解禁する

英語教育の現場では「カタカナ英語になるから」と敬遠されがちなローマ字読みですが、私たちWAMは、学習障害のあるお子さんにとって、ローマ字読みは「命綱」になると考えています。

例えば Wednesday という単語。

これをいきなり「ウェンズデイ」という音と綴りで結びつけるのは、音韻処理が苦手な子には至難の業です。

そこで、あえて「ウェド・ネス・デイ」とローマ字読みでインプットします。

ローマ字読みを先行させるこの学習戦略には明確な意図があります。

ローマ字読みとフォニックス(英語の音のルール)は、対立するものではなく、架け橋(Bridge)の関係にあります。

まずはお子さんが理解しやすい「ローマ字読み」で文字の並びのルールを掴ませ(デコーディング補助)、自信がついた段階で、徐々に本来の発音(フォニックス)へと移行していく「スモールステップ」こそが、挫折を防ぐ鍵となります。

発達性ディスレクシア児への英語指導において、ローマ字読みの併用が英単語の音読流暢性を向上させ、学習への拒否感を軽減させた事例が報告されている。

出典: 発達性ディスレクシア児への英語指導の実践的研究 – 福井医療大学紀要, 2019

【戦略3】アプリでゲーム化する

失敗への恐怖心が強いお子さんには、学習を「勉強」ではなく「ゲーム」にしてしまいましょう。

即座に「ピンポン!」「ブブー」とフィードバックがあるアプリは、脳の報酬系を刺激し、ドーパミンを出やすくします。

  • トド英語: 視覚的な楽しさが豊富で、スモールステップで進めるため、学習障害のお子さんにも人気です。
  • Duolingo: ゲーム感覚で反復練習ができ、「書く」負担が少ないのが特徴です。

これらのアプリを、1日5分でも「やればOK」と認めてあげてください。

「中学に行ったら困る?」その不安への回答

「今はそれで良くても、中学の定期テストや高校入試では、結局書けないと困るのでは?」

この問いは、私たちが最も多く受ける中核的な問い(Core Question)の一つです。

結論から申し上げます。「時代は変わっています。書けなくても、戦える方法はあります。」

1. 「合理的配慮」という権利

現在、学校教育法や入試制度において、障害のある児童生徒に対する「合理的配慮」の提供が義務化(私立は努力義務)されています。

これは、眼鏡が必要な子に眼鏡を認めるのと同じように、「書字」が困難な子に「タブレット入力」や「代筆」、「時間延長」などの代替手段を認めるというものです。

実際に、高校入試や大学共通テストでも、申請によって読み上げ機能の使用や別室受験が認められるケースが増えています。

iPadなどのICT活用は、単なる便利ツールではなく、お子さんが公正に評価されるための「公的に認められた権利」なのです。

2. 将来必要なのは「スペリング」より「ツール活用力」

社会に出たとき、手書きで完璧なスペルを書く機会はどれくらいあるでしょうか?

現代のビジネスでは、スペルチェック機能や予測変換、音声入力を使いこなす能力の方が遥かに重要です。

WAMの生徒さんでも、中学時代は徹底してタブレット学習を行い、「書く」ストレスを最小限に抑えながら英語力を伸ばし、見事志望校に合格した事例がたくさんあります。彼らは今、スマホ片手に海外の友人と堂々とチャットをしています。

「書く努力」と「ICT活用」の未来比較

比較項目 従来の「書いて覚える」指導 これからの「書かない(ICT)」戦略
脳への負荷 大 (苦手な回路を酷使) 小 (得意な視覚・聴覚を活用)
自己肯定感 低下 (「できない」の繰り返し) 向上 (「できた!」の積み重ね)
入試対応 書けないと減点されるリスク 合理的配慮により評価される道が開く
実社会での価値 限定的 (手書き機会の減少) 高い (デジタルツールの活用スキル)

よくある質問 (FAQ)

保護者の方からよくいただく質問にお答えします。

Q. 学校の宿題で「単語の書き取り」が出たらどうすればいいですか?

A. 担任の先生に相談しましょう(合理的配慮の相談)。

「家では書かずに覚える学習をしている」と伝え、回数を減らしてもらう、あるいは「口頭で言えたらOK」にしてもらうなどの調整を依頼してみてください。

これはわがままではなく、正当な配慮の申請です。

※学校によっては、医師の診断書やWISCなどの検査結果が必要になる場合があります。

Q. フォニックスはやったほうがいいですか?

A. 有効ですが、タイミングが重要です。

フォニックスは「音と文字のルール」を学ぶ優れた方法ですが、ルール自体が複雑で混乱するお子さんもいます。

まずは「ローマ字読み」でアルファベットに慣れ親しみ、余裕が出てきてから「Jolly Phonics(ジョリーフォニックス)」などの多感覚教材を試すのがおすすめです。

焦る必要はありません。

英語嫌いになる前に、プロという選択肢を

ここまで、ご家庭でできる「書かない暗記術」をお伝えしてきました。

ですが、お母さん一人ですべてを抱え込み、学校と交渉し、学習計画を立てるのは本当に大変なことです。

もし、ご家庭での実践に行き詰まったり、「うちの子に合った設定の仕方がわからない」と悩まれたりしたときは、私たちオンライン家庭教師WAMを頼ってください。

WAMには、発達障害やグレーゾーンのお子さんの特性を深く理解し、「書かない指導」や「ICT活用」に精通したプロの教育プランナーと講師が多数在籍しています。

「書いて覚えなさい」という言葉の代わりに、「このやり方ならできるね!」というお子さんの笑顔を、一緒に取り戻しましょう。

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