STEM教育とは ~未来を生きるために~

みなさんは、「STEM教育(ステムきょういく)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。 

STEM教育は、次世代の子どもを育てる21世紀型の新しい教育方法として、世界中で注目されはじめています。具体的にはどのような教育方法なのか?詳しく解説していきます。 

 

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STEM(ステム)教育とは? 

世界が注目している「STEM教育」 

そもそもSTEM教育の“STEM”の部分とは、いったい何を指しているのでしょう? 

“STEM”は「Science, Technology, Engineering and Mathematics」のそれぞれの言葉の頭文字を取っており、科学・技術・工学・数学の4つの教育分野を総称しています。 

 

世界では国際競争力を高めるために科学技術開発が必須の分野と位置付けられており、そこで活躍できる人材を育成するために、21世紀型の新しい教育システムとしてSTEM教育が誕生しました。 

とはいえ、STEM教育は「科学技術」や「IT技術」に秀でた人材を輩出することだけが目的ではありません。例えばSTEMで総称されている4つの分野には、それぞれのねらいが込められています。 

 

Science…実験や観察をもとに、法則を見つけ出すこと 

Technology最適な条件や、しくみを見つけ出すこと 

Engineeringしくみをデザインし、社会に役立つものをつくること 

Mathematics数量を論理的に表したり、使いこなすこと 

 

この4つの分野は、それぞれの分野が密接に関連することで現在の技術を成り立たせており、現代においてはこれらの分野を総合的に、かつ子どもの頃から学ぶ必要性が求められています。

 

なぜ、STEM教育が必要なのか?

かつての技術開発は、それぞれの専門分野を研究し、より良いスペックの商品を開発することでニーズが満たされていました。例えば一昔前の携帯電話(ガラケー)では、「カメラの画素数」や「画面の精度向上」などが商品の売りになっていたことがありますよね。これらは、各分野のスペシャリストが自分の得意分野に特化して開発された技術であったといえます。 

 

ですが、現代においてはどうでしょうか。

新作のスマートフォンでは、「このスマホでは搭載されたAIを使って、人間の代わりに〇〇してくれます」のような機能が商品のアピールポイントになっています。〇〇に当てはまる技術は、音声認識や自然言語処理、画像認識など多岐にわたります。

 

このような機能が実現したのは、各々の分野のスペシャリストが他分野の知識にもある程度精通した上で、お互いに連携し合って研究開発を行ったからです。このことから分かるように、現代の技術開発は自分の得意分野以外に、総合的に他分野の知識を身に付けていないと活躍ができない時代にシフトしつつあり、こういった背景からSTEM教育の重要性が求められるようになったのです。 

 

「STEM教育」と「STEAM教育」の違いは? 

STEM教育に似た言葉として、「STEAM(スチーム)教育」という言葉があります。 

これはいわゆるSTEM教育から派生した教育方針で、先ほど紹介した4つの分野に加えてArt(芸術・リベラルアーツ)を加えたものになっています。

 

ここでいう芸術とは、絵を上手に描くとか、楽器の演奏を指すわけではなく、「何を美しいと思うのか」「何を幸せと感じるのか」といった芸術の本質を指しており、この哲学とテクノロジーを融合させたものがSTEAM教育となっています。

 

昔と比べると、私たちの生活の周りには様々なテクノロジーが存在しており、いろいろなモノやコトが人の手を使わずともできるような便利な時代になってきました。そこに「人間がもっと幸せに、心豊かに暮らす方法はないか」を考え、テクノロジーを生かしていくこと、それがSTEAM教育の本質です。STEM教育に比べると、より人間の幸せを追求するために求められる教育だといえそうです。 

 

 

世界と日本のSTEM教育 

世界のSTEM教育の状況を見てみよう 

STEM教育は、世界ではどのように進められているのでしょうか。 

STEM教育を先導してきた国はアメリカ合衆国

元々は「SMET」と呼ばれ、1990年代から科学リテラシー教育の底上げを目的に始められました。2001年にSTEMに名称を変更した後、2009年にオバマ大統領が就任すると、国家レベルでSTEM教育が推進されるようになりました。

2013年に発表された「STEM教育5ヵ年計画」は、2020年までに初等・中等教育の優れたSTEM分野の教師を10万人養成し、今後10年間でSTEM分野の大学卒業生を100万人増加させるなどの具体的な目標を示した計画で、年間30億ドル(凄い額ですね!)もの予算が投じられています。さらに2015年にはSTEM教育法が成立し、従来のSTEM教育に加えて、コンピュータ科学が含まれるようになりました。このように、アメリカではSTEM教育を国家戦略のひとつと位置付けて推進しています。 

 

EU各国

STEM教育を国家戦略とする動きは、アメリカのみならず海を越え世界中に広がっており、EUでは1990年代からEU全体の科学教育の底上げを推進してきました。 学校における「探求型」手法の採用や女子児童生徒の積極的な化学分野への参加を促進させるとともに、EUにおけるSTEMプラットフォームである「EU STEM Coalition」を設立し、加盟国のSTEM教育のベストプラクティスの共有や、支援を行っています。

 

中国

中国では、政府教育部が2015年に初めてSTEM教育について言及し、2016年には「教育信息化第 13 回5カ年計画」で 科目横断学習(STEM 教育)を促進する方針を正式に発表しました。

また、2017年の「義務教育小学校科学課程標準」改訂にあたって、 STEM 教育の実践を義務局課程内に盛り込むことが決定し、STEMの規模は年々拡大しています。

 

 シンガポール

STEM教育の推進において、特に興味深い取り組みをしている国はシンガポールです。

シンガポールのSTEM教育は、国内最大の科学館であるサイエンスセンターが中心になって推進しています。サイエンスセンターはシンガポール政府の協力のもと、中学校の全ての生徒たちにSTEM教育を提供するための「STEM Inc」という組織を立ち上げました。

現在では、小学校でもSTEM教育を試験的に導入する学校も出てきています。シンガポールでは1997年に提起された「思考する学校、学ぶ国家」によって知識中心の学習から思考力の育成へと転換が図られて以来、一貫して探求型学習が推進されてきています。したがって、STEMの知識も「数学」「サイエンス」などの縦割りで学ぶのではなく体験型学習が重視されており、社会での使われ方に則したカテゴリーの中で学習することになっています。 

 

シンガポール

日本の現状 

ここまで紹介した海外諸国の取り組みに比べると、日本のSTEM教育はまだまだ遅れていると言わざるを得ません。2012年にOECD(経済協力開発機構)が72カ国(もしくは地域)の15歳の生徒に対して行った調査によると、インターネットとコンピュータの学校内外の使用について、日本はほとんどの項目で世界平均を下回っていたそうです。中でも、「学校外でコンピュータを使って宿題をする」と答えた割合はわずか9%に留まり、他の調査国に大きく水をあけられてしまいました。 

 

現在の日本では、2019年に文科省が新しい教育施策である「GIGAスクール構想」を発表したり、2020年度からの小学校でのプログラミング必修化が始まったりと、遅まきながらようやくSTEM教育に関する取り組みがはじまり、環境整備を進めている段階だといえます。まだコンピュータの整備率が各自治体によってばらつきがあったり、校内のWi-Fi環境が不十分なところもあり、本格的に浸透していくのはもう少し先かもしれません。 

 

それでも、依然と比べるとプログラミング教室やSTEMのワークショップは確実に増えていますし、STEM教育を専門に研究する機関として「埼玉大学STEM教育研究センター」も設立されています。このセンターでは、STEMのワークショップ、他学校と連携した出前授業・講演、ロボット教材開発、指導者の育成など、様々な活動が行われています。 

 

理系だけではない!「STEM教育」で身につくこと 

ここまでは、STEM教育の概要と世界の状況についてお伝えしました。では、実際にSTEM教育を通じて身に付けられるものっていったい何でしょうか?主に3つの観点から紹介していきます。 

 

創造性を養う 

ここでいう創造性とは、「アイデアを思いつく」のではなく、「新たな価値をつくりだす」資質のことです。STEM教育が目指している創造性とは、自由に何かを作るような無作為なモノづくりではなく、目の前にあるモノをよく観察し、新しい価値を生み出していくことにあると言えます。そのための理論や論理的な思考を基礎知識として身に付ける理数系の学習は、実は創造性と結びつきの強い分野といえます。 

創造性を養うためには、観察眼を磨くことが大切です。当たり前と思われている事象に疑問を持つことで、新たな発見が生み出されることもあるでしょう。STEM教育を通じて、自発的に学ぶ姿勢、自分で発見し理解する力を身に付けていけば、やがて独自の創造性を発揮することができるようになります。 

 

思考力や行動力を養う 

これまでの日本の学校教育は、ほとんどの授業が先生の講義を聞く「受け身」の形態で実施され、学習内容においても解き方が予め定まった問題を、効率的に解ける力を養うことを目的として実施されてきました。 

しかしながら、これからの社会の加速的な変化には、受け身のままでは対処することができません。子どもたちはSTEM教育を通じて、様々な問題に対して自ら問いを立て、主体的に判断することで思考力を養い、また他者と協働しながら問題を解決する過程で行動力を身に付けることができます。 

 

未来を生きるために必要な教育 

2020年より、日本では新学習指導要領が実施されています。この新学習指導要領は、2030年頃の社会を想定して作られているそうです。2030年の社会は、第4次産業革命や、人工知能の急速な進化、グローバル化の進展などの大きな変化が想定される反面、日本においては少子高齢化が更に進行するという懸念があります。また、今後10年~20年程度で、半数近くの仕事が自動化されるという予測もされていることから、雇用環境の変化への対応も大きな課題の一つです。 

STEM教育の浸透・STEM人材の育成は、これらの課題に対して私たちが適応するための重要な施策といえるでしょう。学校の場においては、今まで以上に子供たち一人一人の可能性を伸ばし、新しい時代に求められる資質・能力を確実に育成していくこと、そしてその可能性を探求していく文化を育むことが求められています。 

  

  

 

おわりに 

世界中で広がりを見せているSTEM教育ですが、まだ課題は多く残されています。その一つが、STEM関連の仕事に就いている女性の人材不足です。多くの国や地域で、STEMは男性に向いている分野で、男性が活躍する分野であるというステレオタイプが未だに根強く、結果的に女性のSTEMに対するモチベーションを下げてしまうようです。この問題を解決するためには、思考が柔軟な子どものうちにSTEM教育を通じて「テクノロジーは面白い」「自分もモノ作りや研究に携わってみたい」という気持ちを持たせてあげることが重要であり、特に小学校でのSTEM教育は重要なカギを握るといえます。 

 

STEM

 

STEM教育を通じて、子どもたちは主体的な学習を学び、体感することができます。それは、結果として生涯にわたり学び続ける姿勢を育むことになるでしょう。そしてそれこそが、これからの時代に求められる「変化に対応する力」へとつながっていくのです。これからの子どもたちを育てるには、「男の子だから」「女の子だから」というジェンダーバイアスにとらわれず、一人ひとりに合った教育環境を作ることが大切です。 

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